老

小学生のころによく遊んだ友人がいた。毎日とは言わないが週4くらいでは遊んでいたと思う。何がきっかけで仲良くなったかよく覚えていないが気がつくと放課後には彼の家に入り浸っていた。

古い団地にあるカビ臭くて狭い家ではあったが親が甘い家庭でゲームも漫画も豊富にあった。それ目当てで常に誰かしら他の友人も来ていて4〜5人でだらだらゲームしたり漫画を読んだりしていて、夕方になると「夕焼け小焼け」のチャイムがなり薄暗い団地の階段を降りて家路についた。

秋になって夕方が暗くなるとよくそのことを思い出す。そのころは何故かこの階段をあと10年後も降り続けるだろうと根拠のない確信をしていた。でも彼とは中学進学後に気がつくと疎遠になった。あの階段はまだあるだろうからまた薄暗い夕暮れに降りてみたい。

未来とは予測不可能なもので小学生のころに描いた大人になった自分とはかけ離れた大人になった。大人になると誰かの車でドライブしたり旅行したりしながらもその団地の階段を登り、酒でも飲みながらだらだらゲームをするのかとか思っていた。

だけど現在そのころにその友人の家で一緒にたむろしてた人たちとは誰ひとり連絡を取っていない。おそらく二度と会うことはないだろう。たぶんあのころはマイルドヤンキーみたいなものが理想の大人で幼なじみと地元サイコー！ダチサイコー！の大人になりたかった。夏はBBQして冬は鍋パーティーをしたかった。

あのころの理想とは逆の人生を送っている。地元から離れて東京に住み新宿-池袋間を行ったり来たりしながら周りにいるのはバラバラな故郷を持つひとたちだ。

前置きが長くなったけど最近老人になったあとのことをいろいろ考えている。そしてやはり未来は予測不可能なものであることが分かっている。今日散歩した近所の道を40年後(生きていたら)にも歩く可能性は低いだろう。

おそらくぼくらには"老後"は存在しない。"老"はあっても"後"になることはなく働かされ続けることだろう。動きが鈍くなった老体に鞭を打って清掃か警備をやってるのかもしれない。回転の悪くなった脳で思考しても非合理的でミスが多く完成度も低い。若い上司から蔑まれながら職場のタイムカードを押しているのだろう。

いまの自分の姿を小学生の自分が見たら絶望するだろうがいまの自分はそれなりに幸せに生きている。同じように想像した絶望的な老人生活を送る自分もおそらくそれなりに幸せに生きているのだろう。

老人になって未来がないということは幸せなのだろう。なんの希望もないから無駄な努力もする必要がない。難しいことを考える必要もない。仕事が終われば最寄駅すぐ近くのボトルキープしてる安い飲み屋に入り同じく孤独な老人の常連客たちとたわいもない老害話に花を咲かせる。いまは同じ話を何度もするやつはウザいだけだがそのころは記憶力も落ちて毎回新鮮な気持ちで同じ話を聴ける。

常連客同士で仲良くなった人で現役時代はそれなりに稼いでいたひとがいる。そのひとは常連客のなかでは珍しくその街唯一のタワマンに住んでいた。

その人はむかしのゲームを収集するのが趣味で骨董品みたいなスーパーファミコンや初代のプレーステーションを動かして遊んでいるらしい。ソフトも全部本物ですべてネットのオークションで落としたものらしい。

ゲームなんてアプリゲームを含めもう30年以上やっていないぼくはいまさらゲームなんてやる気が起きないから何度も繰り返す古いゲームに関する話を軽く相づちを打ちながら聴き流していた。

「クロノ・トリガーのラスボスってどんなやつだっけ」

と話を持たせるための苦し紛れに適当に自分でいった言葉がなぜか本当に気になってしまう。

「クロノ・トリガーならうちにあるよ」

と言われたので酒の勢いもあってタワマンについて行ってしまった。

数十年ぶりに触るスーパーファミコンに懐かしさを感じながらゲームをしていると後から他の常連たちがやってきた。何やら定期的に集まってゲームしていたらしい。

みんなであーでもないこーでもないと言い合いながら、だらだらゲームしていたらもう深夜になってしまっていた。明日は朝から寒い現場で棒を振らなくてはならないのでみんなより早めにお暇することにした。

タワマンのガラス張りのオシャレなエレベーターに乗ってかごがゆっくり降車しているあいだ通いつめてる居酒屋のある繁華街の夜景を見ながらあと何年間か死ぬか身体が動かなくなるまではこのエレベーターを降り続けるのだろうかと思った。

って妄想をしてる。

実際老人になったらどうなるかわからないし老人になる前に死ぬかもしれない。でも老人になる自分というのがリアルに感じられるようになってしまったことは間違いない。小学生のころに思い描いた大人像よりずっとリアルに思い描けてしまう。

たぶん戸建ての持ち家で暖かい孫たちに囲まれるみたいな理想的な老後ではないがそれなりには幸せに生きられるんじゃないかと思っている。