『ラーメンと愛国』2

『ラーメンと愛国』の話の続きだけど、ご当地ラーメンの話が面白かった。前回南京そばが支那そばになって中華そばになったところまでで終わったが、中華そばがラーメンになったのは日清のチキンラーメンの影響が大きいようだ。チキンラーメンのテレビCMでラーメンという呼称が一般的になったらしい。


この本ではこのことを詳しく書いてあるし、札幌ラーメンや博多ラーメンが別々のルートで入ってきた別の種類の麺料理が元であるとか興味深い話もあるこで興味持ったら買って読んでみても損はないはず。


個人的に興味を持ったのはご当地ラーメンの話である。いまや日本各地に存在するご当地ラーメンだが、このご当地ラーメンのほとんどがラーメン博物館の完成以後に出来上がったものであってもっというとここ10年くらいに"ご当地"ラーメンとしてラーメン博物館入りしたものが多い。


この本は、その理由を小泉政権の改革に求めている。それ以前の日本は田中角栄の日本列島改造論によって高度成長期を通して中央に集中していた金の流れを公共事業によって地方に流すことで田舎と都会の格差を埋めていた。それは田中角栄が闇将軍として君臨した後の政権にも踏襲されてきてしまい地方はいつのまにか公共事業に依存し公共事業のための公共事業という泥沼にハマっていった。当時の自民党にとっては利益誘導型の政治が選挙の票に結びつくから何かと都合が良かった。


しかし小泉政権になって新自由主義的な政治に変わる。効率の悪い公共事業は打ち切られることになった。これまで公共事業にどっぷり首までつかっていた地方自治体にとってみたら寝耳に水だったようだ。公共事業に依存しそれによって経済を回していた地方自治体が頼れるものは観光しかなかった。というより公共事業関連以外の産業が育ってはいなかったのだ。


だが皮肉にも地方の公共事業によって整備されてしまった地方の景色は似たり寄ったりのチェーン店が立ち並ぶ無個性のファスト風土でしかなかった。そこでご当地ラーメンという偽史を拵えることによってファスト風土に組み込まれたラーメン屋を観光資源にしたのであった。よくよく考えたらご当地ラーメンと言っても別に深く風土に根ざしているわけではない。富山は別に醤油や胡椒の産地でもないし熊本ラーメンは博多豚骨ラーメンにマー油入れただけだろうとかいろいろツッコミが出来てしまう。


そこらへんの考察は面白かった。著者は竹下登内閣のときの「ふるさと創生事業」にも触れていて国から貰った1億円で自由の女神像のレプリカ作ったり日本一長い滑り台作ったりすることが観光客の増加に結び付かなったことに偽史を創作出来なかったことを一因としている。


地方の行政は公共事業誘致のプロかもしれないが観光のプロではなかった。行政の失敗はラーメン博物館という偽史創作のプラットホームによって民間の力で偽史が創作されることとなった。まあ逆に言うとラーメン博物館と銘打っている以上近所で食べられるラーメン屋を並べる訳にはいかなかったのだろう。そういう意味では共犯関係とも言える。


男性器を模した神輿で有名な川崎のかなまら祭りいまや世界中から観光客が集まる祭りになった。それは外国人民俗学者がここに原始的な祭祀の形を見出したからなのだが、実は歴史は浅く1977年に始まっている。


“ 江戸時代に川崎宿の飯盛女(娼婦)達が性病除けや商売繁盛[5]の願掛けを行った「地べた祭」に端を発する。金山神社は明治以降寂れてしまっていたが、昭和40年代くらいから性信仰が残る神社という認識でにわかに外国の民俗学者たちから注目されるようになる[6]。これを受け1977年に、大学で獣医学を学んでいたという2代前の宮司を中心に[7]新たに金山神社の信者組織として「かなまら講」が結成された。それまで祭事は氏子たちによって細々と行われ午前中で終わるようなものであったが、この年からかなまら講が参加して「かなまら祭」が催され、その一部として江戸時代の「地べた祭」も再現されるようになった。以降男根神輿や仮装行列、大根削りなどオリジナルアイデアによる新しい祭事を取り入れつつ年々祭は盛大に開催されるようになった。 ”


https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E9%87%91%E5%B1%B1%E7%A5%9E%E7%A4%BE_(%E5%B7%9D%E5%B4%8E%E5%B8%82)


虚実を織り交ぜながら伝統を創作するで観光客に非日常を体験させるのはすごいことだと思う。このまま100年続けば本当に伝統になってしまう。


徳島ラーメンや和歌山ラーメンや尾道ラーメンも今後100年続けば本当のご当地ラーメンになるのかもしれない。少なくとも2000年代に産まれた子たちは子供のころからご当地ラーメンに親しんで育ってそれがラーメンだと認識してるだろうから。


コメント

  1. 小泉純一郎さんの構造改革が地方色豊かなラーメン文化を生んだとか面白い話だなあ。感動したっ!
    しかし、ラーメンにかなまら祭の話を絡めてくるなんて予想外だった。勃起したっ!

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    1. 本当はローマの話したかったんだけど論点が微妙にズレてその分長くならざるをえないので急遽かなまら祭りの話にしたのだよ。

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