平成化石8 上野の焼肉屋さん編

これは2000年代の話でもう時効を迎えている。


当時、ぼくは、ふくよかな友人とよく焼肉に行っていた。ただ肉を焼くだけだが食べ慣れると違いがわかるようになってくる。寿司もそうだけどシンプルなものほど舌が肥えるとワガママになっていくものだ。


ネットや雑誌で評判の店はいろいろと行ったけど、やはり有名なところは良い店が多かった。でも評判が良くてもイマイチなところもあって焼肉屋の評判にはあやふやなところも多かった。


それなら自分たちの足で探そうということになった。でもこの広い東京でランダムに焼肉屋に入ったところで隠れた名店に出会える可能性は低い。


そこで焼肉と言ったらコリアンタウンだろうということになって上野の韓国人街に行くことになった。


上野駅のすぐ近くにある一角にパチンコメーカーと焼肉屋やだらけの場所がある。すぐにそこが目当ての場所だとわかった。


その中で古く建物でいかにも老舗っぽい店に入った。そこの店は席数も少なく老夫婦のみで店を回しているこじんまりとした店だったが繁盛していて客でいっぱいだった。


奥の座敷席に座ってビールと2、3品肉を注文してから店を見渡すと焼肉用の丸いコンロが真ん中についた机も煙対策の排風機もなく店は煙で前はなにも見えなかった。


かなり古いタイプの肉を乗せて焼くだけの焼肉用のコンロがあって地元の常連さんがやってるのを見よう見まねで肉を焼いてみると味は狙い通り名店と同レベルだった。


友人と2人で隠れた名店を見つけた喜びを共有しながら肉を焼き続け酒を飲んだ。瓶ビールが何本か空になったところでどうせならマッ◯リでも飲もうかということになった。


しかしメニュー表のどこを見てもマッコリなんて文字はない。はて、焼肉屋でしかもコリアンタウンである。マ◯コリがないなんてことはあるのだろうか。


煙りの向こうをよくよく見るとハゲあがった常連らしきおじさんが白い液体を呑んでいるではないか。この店の裏メニューらしい。


ぼくはダメ元で店の店主にマッ◯リを注文してみた。常連にしか出さないものなのかと思いきや、あっさりと出てきた。


しかし、店主が冷蔵庫から出してぼくらの目の前に置いたそれはスーパーで見かけるものとは大きく違っていた。お茶が入っていたであろう2リットルのペットボトルに白いカルピスみたいな液体が詰まっているのだ。


ぼくは恐る恐る


「これってもしかして...」


と聴いたら店主はあっさりと


「うちのは手作りだよ」


と自白した。


ここまであっさりと認められると気持ちが良いものでなんだか悪いことしているような感じは一切ない。


呑んでみるとこれがスーパーで売ってるものとは比べようもないくらい美味だった。


気持ちよくしたぼくは帰りにお土産としてもう一本買ったのだが、そこで教えてもらったのはここら辺の店ではどこでも手作りしているという。


それからしばらくその辺、界隈の店を回ったが全ての店で味が違かった。それぞれの店で作り方が微妙に違うらしくそれも面白かった。


その中で一番自分好みだったお店の店員さんに作り方を聴いたらヤクルトを隠し味で入れると良いということ以外教えてくれなかった。


上野に詳しい人に聞くと上野の焼肉屋さんの前身は戦後の闇市でドブロクを売って生計を立てていたらしい。戦後落ち着いてくると当局は外国人排除に向かい、そのときの口実が酒税法違反だったのだとか。


だとすると平成の世になっても手作りにこだわり続けたのも彼らのアイデンティティだったのかもしれない。


いまから10年くらい前にまたあの液体が飲みたくて上野に行ったらもう古い店はなくなっていて、他の店にも手作りはもうなかった。


適当な店に入りマ◯コリ注文したらスーパーのあれが出てきたので一気に飲み干して会計を済ませた。


それいらい上野のその一角には行っていないがいまはどうなっているのだろうか。

コメント

  1. どぶろく特区に指定されてたら戦後闇市から続いた謎マッコリも保存されたのにもったいない。レシピがどこかで連綿と受け継がれているといいなあ。

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    1. 強引にでもレシピ聞き出しておくべきだったよ

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