平成化石5 トンデモ編
小学生のころ放課後に「こっくりさん」をやった。50音のひらがなとYES NOが書かれた紙に10円玉を乗せて、その上に複数人数の人差し指を一本づつ添える。そして「こっくりさん、こっくりさん」と唱えながら質問をすると、こっくりさんが10円玉で文字をなぞることで、なんでも質問に答えてくれる降霊術のひとつだ。
これは言ってみれば集団の忖度であって本当に勝手に動いたわけではない。みんな意図的に動かしているのだが、その場は勝手に動いたことにしなければならない。そしてしばしば恣意的な答えによって「◯◯が好きなのは◯◯ちゃん」とか根も葉もない噂が生まれるのだった。
こんな風に平成の初めはオカルトが蔓延した時代だった。95年のオウム事件を契機をそれ以後は逆にオカルトを排除する時代に変わった。
オウム事件以前のテレビではよく超能力の特集がやっていて超能力を鍛えるEPSカードなんてものもあった。スプーン曲げなんかみんな一度は経験しているはずだ。
時代は20世紀の終わりを迎えようとしていた。世紀末は終末思想が流行するもので、その代表格がノストラダムスの大予言だろう。その謎めいた暗号のような詩文で書かれた予言を解読すると1999年7月に人類は絶滅するくらいのインパクトのある出来事が起こるという。それは曖昧で人類は絶滅するのかしないのか、それは戦争なのか災害なのかはたまた宇宙人の侵略なのか。解釈はバラバラであった。解読が難しいということはテレビ番組を作る側にとっては好都合だったようで頻繁に特番が組まれ毎回違う解釈がされた。
視聴者としては毎回違う方面から脅されるのだからかなりしんどい。そして終末論はそれだけではなくファティマの第3の予言だとマヤ文明の人類滅亡の予言など、終末論で溢れかえっていた。
小学生だったぼくも1999年までしか生きられないのかと本気で悩んだこともある。同級生ともよくそんな話をしながら放課後を過ごした。
しかしそんな空気はオウム事件が全てを変えてしまった。オウム事件以後、オカルト番組はオカルト検証番組に変わり、超能力者を糾弾し、宇宙人を信じる人を嘲笑し、ノストラダムスは予言者じゃなくてただの悪文クソ詩人ということになった。
1999年7月は恐怖ではなくオカルト信奉者が公開処刑される日となった。そのころまでにはノストラダムスを本気で信じる者などほとんどいなかった。ただオカルト信奉者がどんな苦しい言い訳をしながら懐疑派に集団リンチに合うのかを楽しみにまっていた。フランス革命後のカトリック教会焼き討ちの如く民衆を扇動した暗黒の邪教徒たちが公開で処刑されるのをショーとして楽しんでいた。
そんなころだと思う。ノストラダムスに変わってフリーメイソンなる言葉を聞くようになったのは。実はこの世界を支配しているのはフリーメイソンという闇の秘密結社でアメリカの歴代大統領とか巨大財閥とかメガバンクとかはすべてフリーメイソンの会員たちで占められていて裏で搾取の構造を作られているのだそうだ。
それも外部に情報が漏れない秘密結社であるが故に解釈が多数存在する。ナチスの残党がいたり共産主義者がいたりユダヤ人がいたりかなり多種多様なひとたちがいるらしい。世界各地のお札にはフリーメイソンを表す記号が隠されており独特の折り方をすると9.11のテロ事件後の燃え盛るたツインタワービルが現れるので、やはりあの事件もフリーメイソンの陰謀だそうだ。
そんな感じで2000年代は陰謀説の時代だった。しかし2010年代になるとそれも変化してきた。その契機となったのが世界に蔓延するナショナリズムと移民排斥運動だ。日本でもヘイトスピーチが問題になった。
ナチス成立前のドイツでもこの手の陰謀説が流行していたこともあって陰謀説は人種的偏見の温床となることが分かってきた。日本で起こったヘイトスピーチの問題も日本を在日の人たちが支配しているみたいな陰謀説から始まった。
そんなことでいまは根拠がないトンデモ話をしにくい時代になった。AIが人間を凌駕するみたいな昔のSFのモチーフを持ってきたりもするがSiriやAmazon echoがとても人間に従順で pepperくんがとても可愛いこともあってあまりリアリティがない。
平成の最後にトンデモが大好きなぼくとしては早く誰も傷つけないトンデモ話を誰か創ってくれないだろうかと心から祈っている。
キバヤシ「話は聞かせてもらった! 人類は滅亡する!」
返信削除MMRは平成で最高のギャグ漫画だったね
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