サンドイッチ屋さん「R.O.Star」の「パクチーチキン」を定番メニューにしたのは僕だと思う
どうも、R.O.Starの「パクチーチキンサンド」を一日三度食べていた男、錆田鉄男です。
高田馬場から高円寺発祥のセンプレピッツァが消え、仲屋むげん堂が消えてだいぶ経つ。ああ、中央線文化が消えていくなあ。え? 高田馬場は中央線通ってないだろって? いやいや、東西線が中野や高円寺に直通で乗り入れしてるからギリギリ中央線文化圏だと思う。
もう十年くらい高田馬場に住んでいるので、行き着けのお店が無くなるのを見送ることは珍しくない。夜勤明けに行った小諸そばも、引きこもってひたすらドラクエ9をしていたときに食生活を支えてくれたウェンディーズももうない。
しかし、人生には別れがあれば出会いもある。3年ほど前にR.O.Star(ロースター)というサンドイッチ屋さんが板橋から高田馬場に上陸した。三号店だそうだ。駅から近すぎず、遠すぎず、もともと喫茶店ルノアールが営業していたところに入れ替わる形で開業した。
営業開始直後は「あ、なんか新しいお店できたな」と思っただけで足を運ばなかった。けれども、以前お台場で働いていたときは毎日、飽くことなく、昼はサブウェイで野菜増しサンドイッチをコーヒーで流し込んでいたサンドイッチマンである。それに僕が育った錆田家の朝は必ずパン食で飲み物はドリップコーヒーだった。新しいサンドイッチ屋さんに足茂く通うことになるのは必定だった。
さて、このR.O.Star、もうひとつの売りは100円のコーヒーであった(過去形)。セブンイレブンがドリップコーヒー100円戦争の口火を切った後であるので当然価格はそうならざるを得ない。小学四年生からのカフェイン中毒者である僕はコーヒー戦争特需の恩恵を一身に浴びることができた。
R.O.Starが自宅の近所にできた頃、僕は適応障害の末、会社を辞めていた。医者に「熟睡できるようにする薬」「寝付きをよくする薬」「不安や緊張を和らげる薬」「気分を明るくする薬」を処方されていたが、会社に行きたくなかったのと同じように、病院にも行きたくなかった。
なぜならば、僕が「白髪がだいぶ増えました」と心労の程度を語ると「君なんかまだいいよ! 僕なんかね髪が無いんだよ! プロペシア飲んで頑張ってるんだ! 錆田さんはまだ生えてるからいいじゃん。染めればいいんだし」と赤ちゃんのような産毛で覆われた頭を見せ付けてくるような主治医であったからだ。
ある時は「いやあ、もう朝から晩まで人の悩み聞くのが嫌になってね、これ以上新しい患者さんが来ないようにホームページ閉鎖したんだ」と言って、医院を畳んで南の島への移住計画を立てているという話を患者の僕に語った。
またある時は、薬が合わなくて胃腸の調子がおかしく食欲が出ないと訴えた僕に「えー、今出してるの一番マイルドなやつだよ。長年これでやってるけどみんな大丈夫だよ。じゃあ胃炎の薬出しておくね」と自分の処方に絶対の自信を持っていて耳を貸してくれなかった。
マジで伊良部一郎みたいな精神科医っているんだな、とうんざりしつつも感心していた。
僕の通っていたメンタルクリニックは会社の近くだった。通勤で使った電車に乗って伊良部一郎の診察を受けることを対価に薬を処方してもらうのは、抑鬱状態の人間にとって大変な困難を伴うものだった。僕は自然と病院に行かなくなった。結果、手持ちの薬が尽きると自動的にめでたく断薬が成功し、薬なしで眠れるようになり食欲が回復した。
さて、話をサンドイッチに戻そう。人間の三大欲のうち二つを取り戻し、止めていたコーヒーの摂取を再開した僕は、R.O.Starの「ベーコンエッグ」を食べたときに、久しぶりにうまいものを食べたと感じた。熱々のオムレツに焼き目の付いた厚めのベーコンにジューシーなトマトがパンに挟まれている。申し分ない。完璧な朝食じゃないか。毎日これでいい。
そして、私を虜にしたのが期間限定メニュー「パクチーチキン」だった。薄切りチキンにライムとレモンとパクチーのソースをかけて、ビネガーをまぶした野菜を挟んだサンドイッチだ。口に入れると柑橘類とカメムシの芳醇な香りが鼻を抜けていく。申し分ない。完璧な食事じゃないか。三食これでいい。
まあ、さすがに毎日三食とは行かなかったが、そのくらいの勢いで一日最低一食は「パクチーチキン」をテイクアウトしたり、イートインした。期間限定であるからお別れのときが来るまで目いっぱい食べておこうと思ったのだ。お店のスタッフが裏で僕のことを「パクチーチキン」とあだ名で呼んでもおかしくないくらい、毎日買いに行った。
しばらく、そんな生活が続くうち、なんとメニュー表の「パクチーチキン」から「期間限定」の文字が外れた。僕の「パクチーチキン」に掛ける情熱がお店の経営者に通じ定番メニュー入りしたのだ。
と言うわけで「R.O.Star」の「パクチーチキン」を定番メニューにしたのは僕だと思う。
同じ味覚を持ったベトナム人がたくさんいたんだよ。
返信削除ありがとうベトナムの人。
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